TVを何気に付けたら、壊れかけのRadioが

公開日:  最終更新日:2012/05/12

徳永英明と田舎の不良少年?

僕の少年時代にはバンドブームが全盛期で、ロック以外の音楽は女子供のものって雰囲気が、少なくとも僕の周りではあったように思う。

そんな時代だから、徳永英明の様なソロの歌歌いは、僕らの生きていた小さな社会では、尊敬に値しなかった。

少年時代の僕は、田舎の小さなコミュニティーの中で、虐げられる事もない代わり、仲の良い友達もいなくて、真面目な訳でも無いけど、不良少年でも無い。ただなのと無く孤立した、おかしな存在だった。

虐められるほど力がなかった訳では無いが、慕われるほど人望も無く、嫌われるほどでは無いのかも知れないが、好かれる様な訳理由も無い。そんなどこにでも居るようなひねくれた少年だった。

田舎なので高校生ができるバイトは非常に限られていて、バンドをやっていた僕はライブハウスのスタッフのつながりでライブ会場の設営と警備のバイトを良くやっていた。日払いで給料が貰えたし、肉体労働かつ拘束時間が長かったが、ミュージシャンを間近に見ることが出来たし、その当時には破格の美味しいバイトだった。

時にはその当時好きだった、Jun Sky Walker ( S ) 、The Blue Hearts 、ユニコーン等が来る事もあり、どこからか遣ってくるさえない大学生バイトに適当に威張っておけば楽だったし、まさに天国だった。

ただ、時にはあまり好きじゃないミュージシャンとか、興味がないジャンルの歌手の時もあって、苦痛だったりする時もあった。

徳永英明を初めて見たときも、「今回ははずれだな」と正直思っていた。曲を聴いた事が無かったし、名前からして、「女が好むいい男の中身のない歌手」だろうと思っていた。実際にライブが始まったとき、僕は最前線でステージに背を向けて警備をしていたのだが、見た目の良くない女性達が「キャー!」って言ってステージに駆け寄って着た時は、嫌悪感しか感じなかった。

予想外の感動。

興味がないので、曲も歌詞も歌もなにも耳に入らないままステージが中盤を迎えた頃、MCの最中か盛り上がる曲の最中かは忘れたが、徳永英明が客席に向けてタオルを投げた。

とたんに見た目が残念な感じの年上の女性達「キャブオワァ!!!」みたいな奇声を上げて突進して来た。

そのうちの一人の安物ネックレスが綺麗に弾け飛んで、ガラス玉がそこら中に散乱した。ほっとけば良いのに、その女は必死でそのガラス玉を探している。仕事じゃなかったら完全に無視していたと思うが、徳永英明の歌を聞くより大事なのかと思うと可哀想になったのと、他の客の迷惑になっているので仕方なく拾うのを手伝う事に。

タイミングがいいのか悪いのか、丁度会場内が静かになり、流れて来た曲が「壊れかけのRadio」だった

その時の女性が今の嫁です!

ってのは大嘘で、残念な顔の女性のネックレスだった物を拾うのも忘れて、なぜか曲に聞き入ってしまった。丁度その当時、そのライブの後か先かは分からないが、徳永英明は喉の手術をしている。(後で知った事にだが)

そのせいなのかもともとなのか、聞こえてきた歌は繊細な高い声ながら、腹の底から絞り出すような、綺麗な声ながら、すごくしゃがれている様な、不思議な魅力に溢れていた。

言葉にするのが難しいけど、「この人は、歌以外の全てが全く出来なくても許される種類の人なんだな」って言うような事を漠然と感じたのを覚えている。

それくらい。別世界の人間を初めて目にしたかの様な、そんな衝撃を受けた。歌が糞下手で、音感も何も無い僕が言っても説得力が無いだろうが、他の歌手からは感じなかった「何か」を感じたのは事実だ。

あの当時から僕の心も体もすっかり汚れてしまったが、彼の歌は今聴いてもなんだか不思議な魅力がある。

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